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くしゃみや咳で尿が漏れる・・・それは腹圧性尿失禁かもしれません
「くしゃみをした瞬間にヒヤッとした」「咳をしたら下着が濡れてしまった」・・・そんな経験はありませんか?
実は、40歳以上の女性の約40%が一度は経験すると言われているのが「腹圧性尿失禁」です。お腹に力が入った時に意図せず尿が漏れてしまう症状で、決して珍しいものではありません。出産経験のある女性や更年期を迎えた女性に多く見られますが、年齢に関わらず起こりうる症状です。
多くの方が「恥ずかしい」「年齢のせいだから仕方ない」と一人で悩んでいらっしゃいますが、腹圧性尿失禁は適切な治療やケアで改善できる症状です。この記事では、産婦人科医として多くの女性の悩みに寄り添ってきた経験から、腹圧性尿失禁の原因や改善方法について詳しく解説していきます。
腹圧性尿失禁とは?症状と特徴を知りましょう
腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみ、運動など、お腹に力が入った時に意図せず尿が漏れてしまう症状のことです。
尿失禁には主に3つのタイプがあります。腹圧性尿失禁、急な尿意でトイレに間に合わない切迫性尿失禁、そして両方の症状がある混合性尿失禁です。その中でも腹圧性尿失禁は最も多く、女性の尿失禁の約7割を占めると言われています。
こんな時に尿が漏れていませんか?
腹圧性尿失禁には、次のような特徴的な症状があります。
- 咳やくしゃみをした時に尿が漏れる
- 笑った時や重いものを持ち上げた時に漏れる
- 走ったり、ジャンプしたりした時に漏れる
- 急に立ち上がった時に尿が漏れる
- 尿意がないのに漏れてしまうことがある
軽症の場合は激しい運動時のみですが、重症になると歩行しただけでも尿が漏れるようになります。日常生活に支障をきたす前に、早めの対処が大切です。
なぜ女性に多いのでしょうか
女性は男性に比べて尿道が短く、構造的に尿漏れが起こりやすいという特徴があります。
さらに、妊娠・出産による骨盤底筋へのダメージ、更年期のホルモン変化、加齢による筋力低下など、女性特有のライフイベントが尿失禁のリスクを高めます。初産後1年以内の女性の約30%が腹圧性尿失禁を経験しているというデータもあり、出産が大きな要因の一つとなっています。
腹圧性尿失禁の原因・・・骨盤底筋の衰えがカギです
腹圧性尿失禁の主な原因は、骨盤底筋の衰えと、それを支える組織のゆるみです。
骨盤底筋は、骨盤の底にハンモック状に張っている筋肉で、膀胱や子宮などの臓器を支え、尿道や肛門を締める役割を担っています。この筋肉が衰えると、尿道がしっかりと閉まらなくなり、腹圧がかかった時に尿が漏れてしまうのです。
妊娠・出産による骨盤底筋へのダメージ

出産は女性にとって大きなイベントですが、同時に体への負担も大きいものです。
出産時に骨盤底筋が大きく伸展するため、ダメージを受けてしまうことがあります。陣痛が長引いたり、難産だったりした場合には、そのリスクがさらに高まります。妊娠中に増加する黄体ホルモンも骨盤底筋を緩める作用があるため、妊娠初期から尿漏れが起こることもあります。多くの場合は産後6ヶ月程度で改善しますが、40歳を過ぎた頃から再び失禁を起こすようになる方も少なくありません。
女性ホルモンの減少と更年期の影響
女性ホルモンであるエストロゲンは、骨盤底筋の維持にも深く関わっています。
閉経後、エストロゲンの分泌が減少すると、骨盤底筋の萎縮やコラーゲン減少が起こりやすくなり、尿失禁のリスクが高まります。エストロゲンは尿道の筋肉にはりを持たせ、尿道の支えをしっかりとさせる役割をしているため、ホルモンの低下が筋肉の弱り、骨盤底筋の緩みにつながるのです。
加齢による筋力低下と肥満の影響
加齢とともに、全身の筋力が低下するように、骨盤底筋も例外なく衰えていきます。
50代で約30%、60代で約40%、70代以上で約50%の女性が尿失禁を経験しているというデータがあり、年齢とともに発症率が上昇することがわかっています。また、肥満も腹圧性尿失禁のリスクを高める要因の一つです。過剰な体重が腹部にかかることで、骨盤底筋への負担が大きくなり、尿漏れを起こしやすくなります。特に5年以内に体重が増えている方は要注意です。
自分でできる改善法・・・骨盤底筋トレーニングが効果的です
腹圧性尿失禁の治療で最も基本となるのが、骨盤底筋トレーニングです。
骨盤底筋トレーニングを2〜3ヶ月続けると、約7割の方に効果が出ると言われています。3人中2人は必ず改善する、根気強く続ける価値のある治療法ですが、継続することが必要です。あきらめず続けましょう。
骨盤底筋トレーニングの正しいやり方
骨盤底筋トレーニングの方法は意外とシンプルです。
まず、腹式呼吸や軽い準備体操で全身をリラックスさせます。次に、肛門や尿道・膣だけを5秒間強くしめ、ゆっくりゆるめます。これを20回繰り返し、朝、昼、夕、寝る前と4回にわけて毎日行います。最初は5秒間でもしめておくのが難しい方もいますが、訓練により効果が現れます。
姿勢は骨盤底筋を上手にしめたり、緩ませることができれば、どんな姿勢でも良いのです。立った姿勢、座った姿勢、横になった姿勢など、ご自身がやりやすい姿勢で行ってください。いつでも、どのような姿勢でもできるのが、このトレーニングの大きなメリットです。
効果が出るまでの期間と継続のコツ
効果は早くて2週間位であらわれてきます。
ただし、3ヶ月を目安にきちんとおこなうことが大切です。ポイントは骨盤底筋のしめ方を正しく習得し、根気よく続けることです。治っても続けていく必要があります。予防にもなるので、出産経験がある女性は習慣にするとよいでしょう。
減量も効果的な改善策です
肥満がある方では、減量すると腹圧性尿失禁が改善します。
適正体重の計算方法は、身長(m)×身長(m)×22です。例えば、153cmの方であれば、1.53×1.53×22=51.5kgが理想体重となります。最近太った方で、同時に腹圧性尿失禁が始まったような場合は、元の体重に戻すと、元の状態に戻ることが多いです。
医療機関での治療法・・・より確実な改善を目指して
骨盤底筋トレーニングや減量を試しても効果が出ない場合、医療機関での治療を検討しましょう。
運動が続けられない方や続けても効果が出ないという方は大勢おられます。そのような場合には、より確実な治療法があります。
エムセラ(EMSELLA)による非侵襲治療

エムセラは、骨盤底筋を集中的に鍛えるために開発された医療機器です。
椅子型の機器に座るだけで骨盤底筋を集中的に収縮させることができ、着替え不要、痛みなし、ダウンタイムなしという特徴を持ちます。約30分間、専用のチェアに座るだけで、骨盤底筋全体がしっかり刺激されます。治療中は本を読んで過ごすことも可能で、痛みもほとんどありません。
骨盤底筋を自分ではできないレベルで集中的に収縮させることができ、出産後・加齢による尿漏れ、膣のゆるみ、性的満足度の低下、夜間頻尿などの改善に導きます。海外では85%の患者が性的満足度の向上を実感したという報告もあります。週1〜2回×6回が基本コースのため、短期間で体の変化を実感しやすい治療です。
薬物療法という選択肢
日本で腹圧性尿失禁の治療として認められている唯一の薬は、β2アドレナリン受容体刺激薬の塩酸クレンブテロール(スピロペント®)です。
ただし、重症例やスポーツをする際には効果不十分なことも少なくありません。女性ホルモンは効果がないとされ、尿漏れ改善のためだけのホルモン補充療法は薦められていません。薬物療法は比較的軽度の方に適した治療法と言えます。
手術療法(中部尿道スリング手術)について
重症な尿失禁に対しては、尿道スリング手術(TVT手術・TOT手術)という選択肢があります。
尿道にテープをかけて筋肉を補強する手術で、手術時間は約20分程度、入院は4日間程度です。体への負担が少なく、小さな傷で行うことができます。TVT手術は術後7年にて治癒率81.3%、改善率16.3%という優れた成績が報告されており、特に重症の腹圧性尿失禁に効果があるとされています。
TOT手術はTVT手術を改良したもので、治療成績はほぼ同じですが、安全性に優れていると考えられています。どちらの術式が適しているかは、尿失禁の程度や膀胱・尿道機能検査の結果をもとに医師と相談して決める必要があり、専門外来の受診をお勧めします。
日常生活で気をつけたいポイント
治療と並行して、日常生活での工夫も大切です。
便秘は骨盤底筋に負担をかけるため、食物繊維を多く摂り、適度な水分補給を心がけましょう。重いものを持ち上げる作業が多い方は、できるだけ負担を減らす工夫をしてください。姿勢も重要で、猫背は骨盤底筋に負担をかけます。正しい姿勢を意識することで、骨盤底筋への負担を軽減できます。
運動習慣がない方は、ウォーキングなど軽い運動から始めてみましょう。全身の筋力を維持することが、骨盤底筋の健康にもつながります。ただし、激しいジャンプ運動などは尿漏れを悪化させる可能性があるため、注意が必要です。
まとめ・・・一人で悩まず、早めの対処を
腹圧性尿失禁は、決して「年齢のせい」や「仕方ないこと」ではありません。
骨盤底筋トレーニング、減量、エムセラなどの非侵襲治療、薬物療法、手術療法など、症状の程度に応じた様々な治療法があります。まずは骨盤底筋トレーニングから始めてみて、効果が不十分な場合は医療機関に相談することをお勧めします。
当院では、女性医師が丁寧にカウンセリングを行い、お一人おひとりに最適な治療法をご提案しています。デリケートな悩みだからこそ、安心して相談できる環境を整えています。初回15分トライアルや無料の5分体験もご用意していますので、まずは小さな相談からでも大丈夫です。
尿漏れや膣のゆるみ、性的不快感などのお悩みを優しくサポートし、日常生活の不快感を軽減するための新しい治療法があります。気になる症状や不安なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
著者情報

院長 佐藤 歩美
経歴
横浜市立大学医学部 卒業
NTT東日本関東病院 勤務
総合母子保健センター 愛育病院 勤務
ベビースマイルレディースクリニック有明 副院長などを経て 現在に至る
資格・所属学会
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本周産期・新生児医学会 周産期(母体・胎児)専門医
女性医学学会 女性ヘルスケア専門医
日本性感染症学会 認定医
日本抗加齢医学会 認定医
日本医師会 認定産業医




